口腔外科の症例のうち、軟組織疾患の一部をご覧に入れます。 |
慢性骨髄炎の治療は一般に非常に難しいとされているが、その理由は明らかである。慢性骨髄炎の病態の本質とは何か、ということを避けて通り、本質に踏み込んでいないからである。
難治性の慢性骨髄炎とは「血流のない組織への細菌の定着」であり、その本質は細菌の存在ではなく血流がないことにある。血流が不十分であるための難治化であり、そのため、一時的に寛解しても再燃しやすい。このような慢性創では細菌の存在だけを考えても問題解決にはならず重要なのは感染が起きている場の状況に対する認識を持つことである。
要するに、慢性骨髄炎とは細菌を除去できないから難治性なのではなく、細菌を除去しても感染しやすい状態なのが変わらないから難治なのである。
両者は決定的に異なっている。
現在、慢性骨髄炎の治療として腐骨除去、骨削除とともに抗生剤の長期投与を併用するのが普通である。この場合、抗生剤の長期投与治療の根底にあるのは「細菌がいるから感染が起こる。細菌を除去できないから難治化している」という考えである。だから、細菌さえ除去できれば慢性骨髄炎が治癒すると考え、細菌除去の方法をいろいろ工夫・模索している。
しかしここで抜け落ちているのは「場の状況」、すなわち血流不全に対する意識である。なぜ難治化するのかという根本理由を考えていない治療法である。だから治療法は根治的なものとならないのである。
感染症に対しては感染起炎菌を検査し、感受性のある抗生剤を投与するのは治療の基本だが、その投与した抗生剤を患部に運ぶのは血管であり血流である。患部に血流がなければ、いくら感受性のある抗生剤を投与してもその薬は肝心の患部に到達することはできない。線路が通っていない所には電車で行けないのと同じである。電車で行くためには、そこまで線路が敷設されていて電車が走っていかなければいけない。同様に、感染の治療として抗生剤を投与しても、血流がなければ患部に到達しないのである。血流の問題は抗生剤だけではない。組織の修復そのものにも直接関与している。血流の悪い部位では正常な組織再生は到底望めないからである。
難治性の慢性骨髄炎が起きている部位の血流は、一般に非常に乏しくなっている。つまり、慢性骨髄炎とは血流不全という「場」を背景にして発症している。従って、一時的に細菌を除去できたとしても「場の状態(=血流不全)」が変化するわけではなく、「細菌のいる血流の不良な場」が「細菌のいない血流の不良な場」になっただけの事である。
もしも正常な血流があれば、多少の細菌がいても貪食細胞が働いて感染は防げるはずだし、投与した抗生剤も十分患部に届き効果を発揮するはずである。しかし、正常の血流がなければ貪食細胞は感染巣に登場できないし、抗生剤も届かない。もちろん、洗浄によって細菌は除去できるかもしれないが、それは一時的に除菌できているだけの事であり、創周囲の常在菌が侵入すれば容易に再発する。このようなメカニズムから慢性骨髄炎は再発しやすく、難治性となるのである。
ちなみに、創部を「感染の治療・予防」として消毒すると、状況はさらに悪化する。消毒薬の持つ組織障害性のため骨も周囲の組織も傷害され、結果として「消毒する前」よりさらに感染に弱くなってしまう。要するに消毒は「感染しやすい場」の状況をより悪くしているだけである。
となると、治療の方向性としては、細菌の除去ではなく「場の状態を改善」する事にある。つまり、骨髄炎の起きている部位に十分な血流が届くようにすることが先決である。
【腐骨の除去・掻爬】
・壊死した骨を切除する。出血(少量でもよい)が見られるところまで掻爬・切除するのが理想。
・出血があっても電気メスで止血しない。
・骨掻爬面に消毒薬は絶対に使わない。洗浄は生理食塩水のみ。
【骨欠損部の処置】
・アルギン酸(カルトスタットやソーブサンなど)を創内に詰め込む。これで数分で止血が得られる。
・アルギン酸が血液でぐしょぐしょになっていたら、新しいアルギン酸に詰め替える。
・アルギン酸を入れた後は縫合などの固定は不要。
・翌日、アルギン酸を取り出す。恐らく、きれいな肉芽で創面が全て覆われているはず。
その後はアルギン酸を詰める必要はない。
・消毒は厳禁。イソジンガーグルも不要。うがいは普通の水道水で十分。
【プロスタグランディン(PGE1)投与】
・PGE1製剤の点滴を併用。
・[プロスタンディン3A+ソリタT1
200ml +メイロン1A]を2回/dayを1回2時間かけて2週間連続点滴静注。メイロンは血管痛の予防に有効。
【食事】
・特に制限せず、出血が止まっていれば飲水を開始する。好みの食事でよい。
・絶食は有害無益。水分だけでもよいので必ず経口させる。
【抗生剤】
・抗生剤は術前と術中のみとし、術後の投与は不要。
要点は、手術部位の血流阻害因子を徹底的に排除し、血流増加に努め、乾燥を防ぐことにある。
本病態の本質は、組織壊死と血流障害だからである。
新しい創傷治療より引用、一部改編
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やさしさに包まれたなら:ギターソロ (Ending
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